世界中で多くの大会が中止になるなど、2020年のトレイルランニング界にも新型コロナウィルスは大きな打撃となりました。一年の締めくくりにDogsorCaravanの記事を通じて今年を振り返ります。
マスクがランナーの必携品に・コロナ下のニューノーマル
「三密」を避けることが新しい社会のルールとなり、外出を控える「ステイホーム」が呼びかけられる中で、心と身体の健康を保つためのエクササイズとしてランニングに取り組む人は増えました。公園などでは息抜きを求めて公園でくつろぐ人たちやウォーキングやランニングをする人たちで混雑する状態に。
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こうした中で、ランナーも走る時にマスクをつけるようにとの呼びかけがなされました。マスクだけでなく、ランナーの間で距離を空けて走るなどのガイドラインも示されました。一方、マスクに替えて使われるネックゲイターについてはむしろ飛沫を細かくして飛散させてしまうかもしれないという危惧が示されることもありました。
最近では屋外のランニング中でソーシャルディスタンスをキープして走るのであればマスクを着ける必要はないものの、ランニング中に人が混み合ったり、ランニングの前後の移動に備えてマスクかネックゲイターはいつも用意しておく、というあたりが今の新しい常識といえるでしょうか。
筆者の場合は口を覆ったり外したりがしやすいネックゲイターを使っていますが、最近は海外取材時に入手したスペインのブランド・Sport HGのものがニット生地がやや厚め(=飛沫をより効果的に防げそう)ながら伸縮性も高いので愛用しています。
- マスクの着用も。山中伸弥教授、ランニング中に新型コロナを拡散しないために注意すべきことを呼びかける。(DC Weekly 2020年4月20日)
- 「ランニング中はマスクを、これからの季節は脱水症状に気を付けて」(DC Weekly 2020年5月11日)
- 新型コロナの緊急事態解除後のランニング時のガイドライン(DC Weekly 2020年5月28日)
- ネックゲイターはマスクの代わりにならない?(DC Weekly 2020年8月18日)
コロナ下でもアスリートの意欲とモチベーションは高い
アスリートの皆さんにとって、レースが相次いで中止となったことは目先の目標を失うこととなったでしょう。ましてやプロ・アスリートにとっては今後のキャリアに打撃となったことも想像に難くありません。
コロナ禍が始まったごく早い時期から、厳しい時期であってもできることに取り組もうと呼びかける動きがありました。
- 元気で頑張る姿を見よう、見せよう「オレのワタシの大好き家トレ」(DC Weekly 2020年4月6日)
- 富士山と同じ標高差を目指す「#スカイランチャレンジ3776」(DC Weekly 2020年4月20日)
ほどなくして、レースは開催されなくても自らテーマを設定したり、いつか挑戦したいと考えを温めていたプロジェクトに取り組むというニュースが相次いで聞かれるようになりました。中でも長田豪史さんは早い時期から階段の登り下りや木の周りを走り続けて話題に。夏以降は「シガイチ」の丹羽薫さん、「PASaPASA」の山本健一さんなど、FKTやロングトレイルのプロジェクトが相次ぎました。上田瑠偉さんは各都道府県のトレイルでFKTを記録していくという「Japan F.K.T. Journey」に取り組んでいます。
- 長田豪史さん21時間の階段往復でエベレスト山頂に相当する標高差8,848mD+を達成(DC Weekly 2020年4月20日)
- 丹羽薫、420kmの「シガイチ」を156時間10分で完走、FKTを記録(DC Weekly 2020年6月10日)
- 星野由香理、日光国立公園縦断チャレンジに挑戦(DC Weekly 2020年9月1日)
- 上田瑠偉、日本全国に記録を残すプロジェクト「Japan F.K.T. Journey」をスタート(DC Weekly 2020年9月22日)
- 山本健一「甲斐国ロングトレイル PASaPASA」で350kmを119時間で完走(DC Weekly 2020年11月18日)
- 階段王、渡辺良治が1マイル階段垂直登りでギネス世界新記録達成(DC Weekly 2020年11月23日)
- 上野暁生 Ueno Akio選手に聞く・zoomで世界とつながりながら50時間走り続けたQuarantine Backyard Ultra
海外からもFKTや世界新記録に挑むアスリートの話題が多く聞かれました。アメリカ・コロラド中のNolan’s 14ではFKTの記録が次々に更新されて行きました。ザック・ビターはトレッドミルでの100マイル走で世界記録を更新。昨年のUTMB®︎チャンピオンのパウ・カペルはUTMBのコースに挑戦し、昨年の自身のタイムに迫る好記録を残しました。11月にはキリアンが24時間走に挑戦。完走はなりませんでしたが、山のトップアスリートが400mトラックを走り続けるプロジェクトに挑んだことが話題になりました。
- ザック・ビター、トレッドミルでの100マイル走と12時間走の世界記録を更新(DC Weekly 2020年5月18日)
- コリー・ウォルタリング、1,900kmのIce Age TrailでFKTを達成(DC Weekly 2020年7月1日)
- グザビエ・テベナール、コルシカ島・GR20を完走、FKT更新はならず(DC Weekly 2020年7月8日)
- アンドラ・ウルトラトレイルへのオマージュ、ナウエル・パサラが100マイルのタイムトライアルに挑戦(DC Weekly 2020年7月8日)
- アメリカのNolan’s 14でFKTを更新、サポートなしでサポートありの記録を大幅に上回る(DC Weekly 2020年7月14日)
- ダミアン・ホール、イギリスの431kmのトレイルでゴミを拾いながらFKTを達成(DC Weekly 2020年7月29日)
- イギリスのBob Graham Roundでベス・パスコールが女性によるFKTを更新(DC Weekly 2020年8月3日)
- コロラドトレイルに挑戦中のコートニー・ドウォルター Courtney Dauwalter、500kmを走ってから挑戦を中止することに(DC Weekly 2020年8月11日)
- アメリカのNolan’s 14でFKTの更新ラッシュ(DC Weekly 2020年8月18日)
- 【追記あり】パウ・カペル Pau Capell、UTMBコースでのタイム・トライアルを21時間17分でフィニッシュ
- Wonderland TrailでFKTが次々更新される(DC Weekly 2020年9月1日)
- フェルナンダ・マシェール、1日のうちにグラン・パラディーゾとマッターホルンの登頂に成功(DC Weekly 2020年9月1日)
- アメリカのNolan’s 14でメーガン・ヒックスが女子のFKTを奪還(DC Weekly 2020年9月15日)
- ルカ・パピ、グランカナリア島で13日間で距離850km、累積高度4万メートルを走破して挑戦を終了(DC Weekly 2020年9月15日)
- 24時間の累積獲得高度・喪失高度で17,218mの世界新記録が生まれる(DC Weekly 2020年9月15日)
- 24時間の累積獲得高度・喪失高度で16,513mの女子世界新記録が生まれる(DC Weekly 2020年9月30日)
- キリアン、初の10kmロードレースに挑戦して29分59秒でフィニッシュ(DC Weekly 2020年10月20日)
- 【追記あり】日本時間11月27日午後6時30分スタート・キリアンが24時間走の世界記録に挑む・プロジェクト「PHANTASM 24」は11月21日にスタート
新しい形を模索する大会
トレイルランニングの大会は国内外とも次々に中止となりましたが、当サイトの記事ではウルトラトレイル・マウントフジ、そしてUTMB®︎ Mont-Blancの中止を伝えた記事が大きな反響を呼びました。さらにはアンドラ・ウルトラトレイルが新型コロナによる大会の中止から大会の終了に至ってしまうというショッキングなニュースもありました。
- 大会は中止に・2020年ウルトラトレイル・マウントフジ Ultra-Trail Mt. Fuji、新型コロナウィルスの感染拡大のため
- 2020年 UTMB Mont-Blancはコロナ禍で中止に、エントリー料、来年以降の出場権は?
- アンドラ・ウルトラトレイル、来年以降の大会を開催しないことを発表(DC Weekly 2020年5月18日)
リアルな大会に代えて、バーチャル大会が開催されることも増えました。多くの場合はランナーは大会の行われる山に行かない(行けない)で、予定されていたコースと同じ距離を身近な場所で走るというバーチャル大会でした。しかし、リアルなレースと同じコースを開放して、一定期間のいずれかの日にコースをソロで走ってそのタイムで競うというタイムトライアル形式で大会を開催したのはスイスのSierra-Zinalでした。日本でも白馬国際トレイルランがタイムトライアル形式の予選と、リアルな大会の本選という形式で大会を開催しました。来年になっても大会を開催するための社会の環境が整わない、とりわけ国境を越えて選手が往来するような大会の開催は難しい状況が続きそうです。当サイトが9月にUTMB®︎のプレジデントであるカトリーヌ・ポレッティさんに行ったインタビューの中では、国際的な選手の交流や雄大なトレイルを経験することを尊重しつつ、さまざまな新しいテクノロジーでコロナ禍で新しい大会を作っていくという考え方を聞くことができました。
- コロナの時代のレースの形(DC Weekly 2020年5月28日)
- 「Virtual UTMF」のエントリーページがStravaで公開開始、10月19日にスタート(DC Weekly 2020年10月13日)
- バーチャルでシーズンを先取り・Skyrunner® Virtual Seriesは今週末の4月11日開幕
- スイスの名大会は1カ月間の「フリーフォーム」形式のレースを開催(DC Weekly 2020年7月14日)
- 白馬国際トレイルラン、バーチャルの「予選」とリアルの「本戦」からなる今年の大会開催を発表(DC Weekly 2020年10月13日)
- 「2021年は代替プランを示したうえでUTMB®︎を開催」カトリーヌ・ポレッティ Catherine Polettiさんインタビュー
ただ、厳しい状況下でも選手がリアルに集まって、山を走る喜びを共有する機会を工夫して作ろう、という動きも盛んであったことも忘れてはならないでしょう。当サイトとしては中でも日本国内のスカイランニングに関連しては「特別交流戦」を企画するなど、フォーマットを工夫しながらリアルなレースが開催されたことは特筆に値すると思います。
- 日本のスカイランニングでレース開催のニュース(DC Weekly 2020年6月17日)
- GoldenTrailChampionship が開幕、初日はウェット&マディなコンディションの24kmで男女ともにオリエンティアがトップに【第一日】
当サイトが大会当日のライブ配信に携わったIZU TRAIL Journeyもコロナ禍の中でリアルに開催された大会の一つでした。ライブ配信の中で、プロトレイルランナーで大会コースディレクターの鏑木毅さんが話してくださった、トレイルランニングに関わる人たち全てへのメッセージは来年に向けた励ましの言葉でした。
自然環境を受け継いでいくために
COVID-19以外では、環境保護に向けた動きがトレイルランニングやその周辺でますます活発になっていると感じます。キリアンはコロナ禍が始まる前から、今年は環境への負荷を軽減するためレースなどの遠征旅行は極力減らすとしていたほか、今年に入って自らの名を冠した基金を設立しています。国内では湘南国際マラソンが給水を選手が携帯するマイカップで行うといった新しい試みを導入することが話題になりました。湘南国際マラソンはその後中止が決まりましたが、今後もこうした動きは続くことでしょう。
- 第15回湘南国際マラソンは2月28日開催へ、トレイルランニングではおなじみのマイボトルで走るロードマラソンは「世界初」
- キリアンが自然環境保護に取り組む「キリアン・ジョネット基金」が設立される(DC Weekly 2020年9月30日)
訃報
当サイトではその記事の中でお二人の訃報を伝えることになりました。三浦誠司さんも、アンドレア・ヒューザーさんも筆者にとってはヒーロー、ヒロインでした。改めてご冥福をお祈り申し上げます。